入れ歯(義歯)

良い入れ歯の条件として、以下のような特徴があげられます。

① 動かない

② よく噛める

③ 審美的

④ 清潔

⑤ 長持ち

⑥ 違和感がない

あなたの入れ歯は、この条件のうちいくつくらいを満たしていますか?

5つ以上ならば、あなたの入れ歯は良い状態だと言えるでしょう。

 

① 良い入れ歯は動かない

よくテレビ番組などに、落ちる入れ歯に悩んでいる高齢の方が出てくることがあります。「お口を開けたときに、入れ歯が落ちないこと」、これは入れ歯の最低条件です。落ちないようにするには、きちんと入れ歯の印象が取れていて(歯の型取り)、充分に吸着する大きさをしていることが大事です。特に上の入れ歯など、口を開けるたびに落ちてしまうのでは話にもなりません。

反対に、下の入れ歯などは、話しているうちに飛び出してしまうことがあります。これは入れ歯が大きすぎたり、歯の並んでいる位置が頬や舌の動きを邪魔する位置にあったりするからです。
入れ歯は大きすぎても小さすぎてもいけないのです。

入れ歯が落ちたり飛び出したりしなくても、噛むたびに動いたら、粘膜と入れ歯がこすれるため、痛くて噛めません。動く要因は、入れ歯の大きさを適切なものにし、噛み合わせを調整することによって取り除くことができます。

 

② 良い入れ歯はよく噛める

入れ歯安定剤のコマーシャルなどで、安定剤を使うとリンゴがかじれたり、おせんべいをバリッと丸ごと噛み砕いたりするシーンがありますね。それは良い入れ歯なら、安定剤を使わなくても可能です。なぜなら、良い入れ歯は物を噛んでいるときも力学的に安定し、安心して噛み締めることができるからです。

安心して噛み締めるには、噛み合わせが整っていなければなりません。しかし、噛み合わせを正常にすることが、入れ歯の治療では特に難しいのです。入れ歯を長く装着していると、お口の中が痛くなるどころか、気分が悪くなったり、頭がフラフラしてきたり、偏頭痛がしたりすることはありませんか? こうなっていたら、充分な噛み合わせのチェックが必要です。

また、重いものを持ち上げるとき、奥歯をギュッと噛み締めて力を入れることがあります。噛み合わせが悪い場合は、奥歯でギュッと噛み締められないため、力が入りません。
最近、めっきり力が衰えたと思っている方は、本当に筋力が衰えただけなのでしょうか? もしかしたら、噛み合わせが悪いのかもしれません。

 

③ 良い入れ歯は審美的(美しさと機能性)

街の中を歩いていると、ひと目で入れ歯だなとわかる人がいます。どうしてでしょうか?
人間は過去に見てきた経験をもとに、本能的に「自然な形」というものを記憶しています。それに近いものを美しいと感じ、自然な形から逸脱しているものを不自然と感じます。そして、その差がわずかであっても敏感に反応し、変だな?と感じるのです。

では、自然な形というものは、どのように作られるのでしょうか。
それは「機能」によって作られます。機能的なものは無駄がはぶかれ、最大の効果が発揮できるような形をしています。そして、最も効率の良いものだけが生き残り、代々受け継がれ、長い歴史を経て自然な形として認識されるのです。したがって、審美的なものは必ず機能性という面も兼ね備えています。

良い入れ歯は、自然にものを食べ、しゃべり、笑うことができます。入れ歯は顔の筋肉を裏から支えているので、入れ歯の出来が良くないと、顔にシワが寄ったり、口が曲がったり、唇が垂れ下がったりします。唇の動きも悪くなり、笑っても歯が見えないので、まるで笑っていないように他の人は思うかもしれません。
素敵な笑顔を作り出すためには、その人その人に合う歯を選び、歯の位置を決め、歯肉の形を作って、筋肉、骨格、お口の動きに調和した入れ歯を作ります。うまくお口の動きに調和した入れ歯ができると、当然、動かないし、違和感はないし、よく噛める入れ歯となります。そして、何よりも素敵な笑顔をもたらしてくれます。つまり、よく噛める入れ歯、違和感のない良い入れ歯であってこそ、はじめて審美的な入れ歯となりうるのです。

 

④ 良い入れ歯は清潔

食後に入れ歯を外すと……食べかすがベッタリ付いている。そんなことはありませんか?
これは、入れ歯が動くためか、入れ歯の「研磨面形態」という赤い歯肉の部分が、お口の動きに合っていないことが原因です。食事をしている最中に入れ歯が動くと、動くたびに入れ歯と粘膜の間に食べかすが取り込まれ、汚れがたまります。

食後に入れ歯を外すと……入れ歯の裏側に細かい食べかすが、いっぱい付着している。そんなことはありませんか?
食後に入れ歯が洗えないままだと、食べかすを栄養源にして細菌がたくさん繁殖します。真夏に生ゴミを外に一日放置すると、どうなるでしょう? 腐って、ものすごい異臭を放つようになってしまいますね。お口の中も水分がいっぱいで温度は36~37度、真夏の日中のような環境です。唾液で洗い流される分はありますが、当然、これらの食べかすは異臭を放ち、口臭の原因となります。

食後に入れ歯を外すと……歯の横の赤い歯肉の部分に食べかすがベッタリ付いている。そんなことはありませんか?
これは入れ歯に並べた歯の位置が悪く、それに伴う歯肉の形が、お口の動きに調和していないために起こります。入れ歯の歯肉は自分の歯肉と違って人工物ですから、粘膜から粘液が出ず、汚れを自動的に洗い流すしくみがありません。入れ歯というものは、お口の頬の粘膜と調和し、唾液が常に入れ歯の表面を流れ、のどの奥へと食べ物を送るしくみになっていないといけないのです。
どこかによどむ所があると、そこにはどんどん汚れがたまってしまいます。ただでさえ年を取ると唾液の出が悪くなるので、洗い流す機能も悪くなります。そういう方も、食後にお茶などを飲むことによって、入れ歯に付いた食べかすが洗い流されるような機構になっていないと、入れ歯を清潔に保つことはできません。

入れ歯は毎日使うものです。誰もが清潔であってほしいと思っています。清潔を保つために、毎回の食事が終わるたび、入れ歯を洗いに洗面所へ行かないといけないのか、最後にお茶を飲んでお口をゆすぐだけでいいのか。良い入れ歯と悪い入れ歯とでは、こんな手間の面でも違いが出てきます。

 

⑤ 良い入れ歯は長持ち

良い入れ歯を使っていると、おいしく、よく噛めるようになりますが、もっと重要なことがあります。それは「良い入れ歯は長持ちする」ということです。一言で“長持ち”と言われてもピンと来ないかもしれませんが、“長持ち”するということは、お口の中の状態が“変わらない”ということです。
苦労して入れ歯を作ったのに、すぐにまた作り直さなければならない状態では、本当に困りますね。作り変えるということは、自分の歯がさらに抜けているかもしれません。あごの骨が減っているかもしれません。あごの関節がおかしくなっているかもしれません。そんな悪循環を繰り返すと、どんどんお口の中が不健康で不安定な状態となってしまいます。

私たちが入れ歯を作る目的は、患者さんの健康のお役に立つためです。これは予防の概念とも通じるのですが、健康を維持するには「悪くならないようにする」ということが重要です。入れ歯を装着していることが、逆に、お口の中を破壊していくことになるのであれば、もはや治療の目的を果たしてはいません。

“長持ち”して“変わらない”ということには、患者さんの健康に大きな利益を与えるという意味があります。そして、大きな価値があるのです。

 

⑥ 良い入れ歯は違和感がない

良い入れ歯は違和感がありません。それは、お口の動きに入れ歯の各部分が調和して、邪魔をしないからです。入れ歯は飾り物ではありません。入れ歯を付けたまま話したり、食べたり、物を飲み込んだりします。そのとき、特に下のあごはダイナミックに動きます。舌も食べ物を運ぼうとして大きく動きます。その動きを入れ歯が邪魔するようだと、筋肉の緊張を生み、結果として“疲れる入れ歯”となってしまいます。

入れ歯に吸着性を出そうとして、大きめに加工した入れ歯を見かけますが、必要以上に大きくすると、違和感の強い使えない入れ歯となります。良い入れ歯とは、吸着性がありつつも動きを邪魔しない、すべてに折り合いをつけた、ほどほどの大きさでなければなりません。

また、違和感には、噛み合わせが原因のものもあります。噛み合わせが悪いと筋肉のバランスが悪くなり、肩こりなどの原因となる場合もあります。また、ホルモン分泌のバランスが崩れるなどの全身的な問題が生じ、その結果、入れ歯を装着していると唾液が出ない、吐き気がする、ひどいときには顔面が痛いなどの症状が出ることもあるのです。

入れ歯が合わない、だけど、仕方がないので我慢して使っている。という方は多いのではないでしょうか。しかし、そのちょっとした我慢が、かえって自分の体を悪くしてしまいます。そして、その変化は、ゆっくり少しずつ進行し、悪くなったときには取り返しのつかないことになっているかもしれません。

「違和感がない」ということは、入れ歯を長く使っていくために、自分の体を壊さないために、重要なことなのです。

 

入れ歯(義歯)の症例1

入れ歯1

 

入れ歯(義歯)の症例2

入れ歯2